コラム
効率的・効果的なERP導入方法 第2回：基本構想の立案 2010.12.6 末松 康祐
よく言われることですが、単純に現行システムからERPへ置き換えるだけでは大きな効果を得ることはできません。
経営レベルでの効果を生み出すには改革を伴う導入の基本構想を立案することが必要です。
但し、間違ったアプローチを行うと大きな失敗プロジェクトとなってしまいます。
弊社ではこれらの失敗に陥らないために、基本構想段階で下記の3点が最も重要になると考えています。
��.ERPの機能を意識した改革立案
改革案検討のアプローチとして『あるべき業務』を作り上げる方法があります。
スクラッチでのシステム構築を前提とする場合はこの方法が最も有効かもしれません。
但し、全業務で網羅的に『あるべき業務』を検討するのは膨大な時間がかかります。
また、ERP導入においては『ERPに業務を合せる』という方法もよく見られます。
これでは業務改革が達成されなかったり、悪くすると生産性が低下します。
弊社ではこれらのバランスをとる事を重視しています。
つまり、現状業務とERPの機能を理解した上で改革を立案する方法になります。
検討における思考プロセスは次の通りです。
現状業務に対して『業務仕分け』を行い、このように分類することで
検討すべき範囲を限定し、効率的に推進することができます。
この方法を用いることにより、中堅企業では1〜2ヶ月で基本構想を立案することが可能になります。
また、コスト／スケジュールにおいても実現性の高い改革案を立てることができます。
��.効果導出を前提とした改革検討
一般的にERP導入は年商の1〜2%の投資が必要です。
それだけの投資には、明確な効果がなければ経営層の了承は得られません。
弊社の経験上、ERPを導入することで期待できる改革を検討しても大きな効果を生み出すことはできません。
多くは『システムの使い勝手』に傾斜した改革案になります。
これでは到底投資を回収することはできません。
弊社では、前述の『業務仕分け』において改革を検討する際には、まず効果を定量的に仮定し、
それを実現するためにはどういった組織/業務プロセスにすべきかをクライアントと議論します。
効果にはコスト削減・収益拡大の二つがありますが、今回はERP導入で
最も期待される『業務工数の削減』について検討のポイントをご説明します。
『業務工数の削減』を検討する際には、システムによる自動化を検討する前に、
次の視点での検討を行うことが重要になります。
●廃止：そもそも不要な業務をなくし、業務を削減する。
例）誰も見ない／見ても打ち手の無い報告資料の作成
●簡素化：業務や作業の流れを見直すことで工数が減らす。
例）複雑な部門間の情報のやりとり、必要以上の承認/報告/確認作業
●集約化：業務を1部門に集約することで工数が減らす。
例）同様の数値集計を1部門で集約
●分散化：業務を各部門に分散させることで業務を平準化する。
例）月末/月初の伝票入力を各部門での月中の業務に分散
●外注化：付加価値の低い業務を外注にすることで業務を削減する。
例）人事/経理等の間接部門を外注化
＜検討事例＞
■仮定した効果
生産管理部を10人体制から5人体制とする。
■現状の問題点
在庫分析業務・生産計画立案で多くの工数を要している。
■検討結果
・在庫報告書を各部へ配布していたが有効利用されていない。⇒廃止
・生産計画立案までに営業と日々情報交換を行っている。⇒簡素化
・営業でも製品在庫分析を行っている。⇒営業へ集約化
・詳細な日程計画を全て生産管理で行っている。⇒各製造部へ分散化
・生産計画に応じた出荷の配車計画を立てている。⇒物流業者へ外注化
こういった検討を行うことでシステム機能に頼らずに大きな効果を生むことができます。
また、業務がスリム化されることによりシステム導入コストが抑制され、投資対効果を最大化することができます。
��.全社的な巻き込み
システム導入や業務改革を進めるにあたり、情報システム部門や企画部門が主導することが一般的です。
主導する部門がまず最も重視すべきことは、『経営層を巻き込むこと』です。
経営層が考えている経営の方向性に合致しない改革案では了承を得ることができません。
もし了承が得られたとしても、他の施策との齟齬によりプロジェクトをうまく推進できなくなります。
最も悪いパターンでは、企業の優位性を失うことなります。
＜失敗事例� �
顧客の要求には全て応えることを経営方針としていたが、
過剰在庫を抑制するために製品の標準化や在庫対象品の絞りこみを実施した結果、
顧客流出を招いてしまった。
＜失敗事例�◆�
経営層はM&Aによる子会社展開を考えていたが、グループ経営に対応できない基本構想を
立案したため、了承されずに一からやり直しとなった。
次に重要な事が『各部キーパーソンを巻き込むこと』です。
各部のキーパーソンは良くも悪くも自部門の業務に対する思い入れが強いため、
共に検討を行い、共に改革案を立てることが不可欠になります。
巻き込みが不十分な場合、システム導入段階で次のような事態に陥ります。
《失敗に繋がる傾向》
・現状業務を前提としたシステム機能を求める。
・独自の改革案を展開する。
《結果》
・システム導入費用が増加する。
・各部の改革のつじつまが合わず、破綻する。
こういった失敗にならないために弊社では、
�〃弍珍悗悗離劵▲螢鵐阿鮃圓ぁ�基本方針を策定
��各部キーパーソンを交えた検討会（業務仕分け等）を実施
というアプローチを行うようにしています。
総括
一般企業にとって、ERP導入の基本構想を立案することはそう多くはありません。
一方、効果的/効率的なERP導入の基本構想を立案するためには様々なノウハウが不可欠です。
その推進には十分な準備と体制構築をご推奨します。
《今回ご紹介したポイント》
��-1.ERPの機能とあるべき業務のバランスをとって改革を立案
��-1.効果を仮定し、実現するための改革を検討
��-2.業務工数を削減するための視点を意識した検討
��-1.経営の方向性を汲んだ基本方針の策定
��-2.各部キーパーソンとの合意形成
次回はERPベンダーや導入ベンダーへ提示するRFP(提案依頼書）の作成方法について
重視すべきポイントや作成手順をご紹介します。
【次回以降の掲載予定】
第3回：RFPの作成
第4回：パッケージ/導入ベンダー選定
第5回：要件定義/プロトタイピング
第6回：移行
第7回：チェンジマネジメント
第8回：プロジェクトマネジメント
但し、間違ったアプローチを行うと大きな失敗プロジェクトとなってしまいます。
[ 主な失敗例 ]
■ 基本構想が立案できない／経営層から承認されない。
■ システム導入段階でコスト／スケジュールが計画を大幅に超過する。
■ 効果のないシステム導入となる。
■ 導入後の業務で問題が多発する。
弊社ではこれらの失敗に陥らないために、基本構想段階で下記の3点が最も重要になると考えています。
��.ERPの機能を意識した改革立案
��.効果導出を前提とした改革検討
��.全社的な巻き込み
��.ERPの機能を意識した改革立案
改革案検討のアプローチとして『あるべき業務』を作り上げる方法があります。
スクラッチでのシステム構築を前提とする場合はこの方法が最も有効かもしれません。
但し、全業務で網羅的に『あるべき業務』を検討するのは膨大な時間がかかります。
また、ERP導入においては『ERPに業務を合せる』という方法もよく見られます。
これでは業務改革が達成されなかったり、悪くすると生産性が低下します。
弊社ではこれらのバランスをとる事を重視しています。
つまり、現状業務とERPの機能を理解した上で改革を立案する方法になります。
検討における思考プロセスは次の通りです。
| 現状業務 | ERP機能 | 重要性 | 改革検討の考え方 |
|---|---|---|---|
| 問題なし | 現状踏襲可能 | ‐ | ⇒ 現状を踏襲（検討しない） |
| 問題なし | 現状踏襲不可 | 高 | ⇒ 現状を踏襲（ERPに機能追加） |
| 問題なし | 現状踏襲不可 | 低 | ⇒ ERPに合わせる |
| 問題あり | 解決可能 | ‐ | ⇒ ERPに合わせる |
| 問題あり | 解決不可 | 高 | ⇒ あるべき業務（ERPに機能追加） |
| 問題あり | 解決不可 | 低 | ⇒ ERPに合わせる |
現状業務に対して『業務仕分け』を行い、このように分類することで
検討すべき範囲を限定し、効率的に推進することができます。
この方法を用いることにより、中堅企業では1〜2ヶ月で基本構想を立案することが可能になります。
また、コスト／スケジュールにおいても実現性の高い改革案を立てることができます。
��.効果導出を前提とした改革検討
一般的にERP導入は年商の1〜2%の投資が必要です。
それだけの投資には、明確な効果がなければ経営層の了承は得られません。
弊社の経験上、ERPを導入することで期待できる改革を検討しても大きな効果を生み出すことはできません。
多くは『システムの使い勝手』に傾斜した改革案になります。
これでは到底投資を回収することはできません。
弊社では、前述の『業務仕分け』において改革を検討する際には、まず効果を定量的に仮定し、
それを実現するためにはどういった組織/業務プロセスにすべきかをクライアントと議論します。
効果にはコスト削減・収益拡大の二つがありますが、今回はERP導入で
最も期待される『業務工数の削減』について検討のポイントをご説明します。
『業務工数の削減』を検討する際には、システムによる自動化を検討する前に、
次の視点での検討を行うことが重要になります。
●廃止：そもそも不要な業務をなくし、業務を削減する。
例）誰も見ない／見ても打ち手の無い報告資料の作成
●簡素化：業務や作業の流れを見直すことで工数が減らす。
例）複雑な部門間の情報のやりとり、必要以上の承認/報告/確認作業
●集約化：業務を1部門に集約することで工数が減らす。
例）同様の数値集計を1部門で集約
●分散化：業務を各部門に分散させることで業務を平準化する。
例）月末/月初の伝票入力を各部門での月中の業務に分散
●外注化：付加価値の低い業務を外注にすることで業務を削減する。
例）人事/経理等の間接部門を外注化
＜検討事例＞
■仮定した効果
生産管理部を10人体制から5人体制とする。
■現状の問題点
在庫分析業務・生産計画立案で多くの工数を要している。
■検討結果
・在庫報告書を各部へ配布していたが有効利用されていない。⇒廃止
・生産計画立案までに営業と日々情報交換を行っている。⇒簡素化
・営業でも製品在庫分析を行っている。⇒営業へ集約化
・詳細な日程計画を全て生産管理で行っている。⇒各製造部へ分散化
・生産計画に応じた出荷の配車計画を立てている。⇒物流業者へ外注化
こういった検討を行うことでシステム機能に頼らずに大きな効果を生むことができます。
また、業務がスリム化されることによりシステム導入コストが抑制され、投資対効果を最大化することができます。
��.全社的な巻き込み
システム導入や業務改革を進めるにあたり、情報システム部門や企画部門が主導することが一般的です。
主導する部門がまず最も重視すべきことは、『経営層を巻き込むこと』です。
経営層が考えている経営の方向性に合致しない改革案では了承を得ることができません。
もし了承が得られたとしても、他の施策との齟齬によりプロジェクトをうまく推進できなくなります。
最も悪いパターンでは、企業の優位性を失うことなります。
＜失敗事例� �
顧客の要求には全て応えることを経営方針としていたが、
過剰在庫を抑制するために製品の標準化や在庫対象品の絞りこみを実施した結果、
顧客流出を招いてしまった。
＜失敗事例�◆�
経営層はM&Aによる子会社展開を考えていたが、グループ経営に対応できない基本構想を
立案したため、了承されずに一からやり直しとなった。
次に重要な事が『各部キーパーソンを巻き込むこと』です。
各部のキーパーソンは良くも悪くも自部門の業務に対する思い入れが強いため、
共に検討を行い、共に改革案を立てることが不可欠になります。
巻き込みが不十分な場合、システム導入段階で次のような事態に陥ります。
《失敗に繋がる傾向》
・現状業務を前提としたシステム機能を求める。
・独自の改革案を展開する。
《結果》
・システム導入費用が増加する。
・各部の改革のつじつまが合わず、破綻する。
こういった失敗にならないために弊社では、
�〃弍珍悗悗離劵▲螢鵐阿鮃圓ぁ�基本方針を策定
��各部キーパーソンを交えた検討会（業務仕分け等）を実施
というアプローチを行うようにしています。
総括
一般企業にとって、ERP導入の基本構想を立案することはそう多くはありません。
一方、効果的/効率的なERP導入の基本構想を立案するためには様々なノウハウが不可欠です。
その推進には十分な準備と体制構築をご推奨します。
《今回ご紹介したポイント》
��-1.ERPの機能とあるべき業務のバランスをとって改革を立案
��-1.効果を仮定し、実現するための改革を検討
��-2.業務工数を削減するための視点を意識した検討
��-1.経営の方向性を汲んだ基本方針の策定
��-2.各部キーパーソンとの合意形成
次回はERPベンダーや導入ベンダーへ提示するRFP(提案依頼書）の作成方法について
重視すべきポイントや作成手順をご紹介します。
【次回以降の掲載予定】
第3回：RFPの作成
第4回：パッケージ/導入ベンダー選定
第5回：要件定義/プロトタイピング
第6回：移行
第7回：チェンジマネジメント
第8回：プロジェクトマネジメント
